名古屋地方裁判所 昭和51年(ワ)2266号 判決
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【判旨】
一まず本件請負契約の成立ならびにその解除の成否について検討する。
<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
1 原告は鋳物材料、窯業材料、建築用壁材料等の販売を営業目的とする会社であるが(この点は当事者間に争いがない。)、被告と昭和四五年頃より鋳造の材料である硅砂の売買取引を行い、原告は被告より電話による受注に応じて商品を出荷し納入するのを通例としていた。そのうち昭和四九年一一月初め頃、たまたま原告代表者である大原秀夫は被告代表者である頼安進より被告において焼鈍炉を新築する計画のあることを聞いたが、原告自身は該工事に携わるものではなかつたけれども、身辺にこれを取扱う取引先があつたので、是非被告より右工事を請負いこれを右取引先に下請けさせて利益を得たいと考えた。かくして大原は頼安と右工事の請負について交渉を始め、大原はその後数回に亘つて築炉に要する煉瓦の製造業者である山本耐火工業所(現在山本耐火工業株式会社)の代表者山本勝一あるいは築炉工事の業者である東築株式会社の代表者水野某、専務取締役日比野互朗らと共に再三に亘り姫路市の被告方を訪れて頼安と交渉を重ねた。この間大原は頼安の要望により築炉工事の規模、内容等について右日比野に同人の作成した設計図を示して説明させ、また工事費用につき右下請業者よりそれぞれの工事費用の見積額を算出させた上自己の請負代金額金八三〇万円を算定した見積書を作成し、同年一一月一二日頃被告方にこれを提示した。
2 原告が被告に呈示した右設計図は比較的簡略なものであるが、東築株式会社の内部において設計、承認、検閲、写図の各責任者の査閲手続を経て作成された正規のものであつて、築炉を専門に業とする同会社では該工事の規模からみてこれに基づき直ちに工事を施工するに足りるものであつた。そうして日比野はこれにより頼安に焼鈍炉の構造、規模を説明し、同人の質問に答え、その納得を得るに至つた。その際築炉の基礎部分の工事は被告において構築することになり、日比野は頼安より当該部分の設計図の提出を求められた。そこで日比野は後日自ら作成した基礎部分の設計図のほか後日横山建築設計事務所に依頼して作成した設計図をも被告方に提出した。またその際工事日程についても話合いがなされたが、東築株式会社においては昭和四九年一二月末までには工事を完成することを約し、頼安は工事人夫の宿舎として被告の事務所二階の空部屋の提供することを承知し、なお東築株式会社は被告に対し後日同年一二月一日より被告方において基礎工事に着手し、七日までにこれが完了した後同月九日以降東築株式会社において、鉄工工事、築炉工事、電気関係工事を第二、第三工程基礎工事の工程を交えて実施し、同月末に完工する旨の計画を記載した工事日程表を提出している。さらに本件築炉工事の請負代金についても原告と被告間に交渉がなされ八三〇万円と予定された。これについても原告としては当初一、二〇〇万円程度で請負うことを希望していたが、被告と交渉を重ねるうち減額を余儀なくされて最終的に右金額の合意にいたつたものであつた。
3 かくして原告は被告より注文の連絡のあるのを期待していたところ、昭和四九年一一月一八日午前九時二五分頃頼安より電話があり「注文書を出すので仕事にかかつて下さい。」と伝えて来た。そこで大原は早速山本耐火工業所および東築株式会社に対しそれぞれ分担する下請業務に着手するように命じた。かくて山本耐火工業所は煉瓦の製作を始め、東築株式会社は材料の切り込みに取りかかつた。そうして大原自身が同月二二日受注の謝礼を兼ねて被告方を訪れ、請負代金は金八三〇万円とし、年内の完成を約し、着工の日時については基礎工事を被告が行う関係から後日連絡を受けることを確認した。その後同年一二月七日にまた被告方を訪れ、請負代金の支払日についての約を取りつけて来た。そうして同月一二日頃には東築株式会社が姫路の被告方に赴いて現地で材料の組立工事に着工する段取りにまでなつた。また、このような経過のうちに山本耐火工業所は同月六日煉瓦を被告方に送り込んで築炉の構築に備えた。
しかるに同月一二日になつて大原は被告より「工事を延ばすから煉瓦の納入は少しストツプしてくれ」との連絡を受けた。そこで大原は驚き翌五〇年正月早々に被告方に赴き早期に着工させてもらいたい旨を申し入れたが、被告方ではもう少し待つてくれというばかりで一向にらちがあかなかつた。その後このような状態のまま時日を経過したが、被告は同年八月中にも九月中旬には着工を求めるような態度を示し、これが実現することなくずるずると遷延するうちに、同年一〇月末頃には翌年の一、二月頃に着工を求めるような意向を示すなどしながら一向に着工の指示をせず不明確な態度に終始したため、遂に原告もたまりかねて昭和五一年八月二五日付書面により被告に対し同書面到達の日から一〇日以内に工事着手の指図をするよう、右指図のない場合は当然本件請負契約を解除する旨の条件付契約解除の意思表示をなし、同書面は同月二七日被告に到達した(ただし右催告ならびに解除の意思表示を記載した書面が被告に到達したことは争いがない。)。しかし被告は原告に対しなんら着工の指図をすることはなかつた。
以上の事実を認めることができる。<証拠判断略>。
そうして右認定の事実によれば、原告と被告間には被告代表者頼安進より原告に対し昭和四九年一一月一八日電話により工事着手の指示のあつた時点において焼鈍炉の築造に関する本件請負契約が有効に成立したことを認めることができる。
ところでこのように工事請負契約の成立が認められる以上注文者たる被告としては請負人たる原告に対し相当と認められる期間内に当該工事に着手することを指図して同人に請負人として負担する義務を履行させ契約の目的を達成することに協力する義務を負うものであり、これをしないまま漫然と契約関係を不確定な状態に放置しておくことは信義誠実の原則に反し許されないものというべきであつて、この義務の懈怠は注文者の側における債務不履行として契約解除の原因となるものというべきである。
そこでかかる見地に立つて本件を見るに、原告と被告間に本件請負契約が成立した後約一年一〇か月にわたりなんら着工の指図をすることなくして時日を経過し、しかもその時点において原告より右指図を求める旨の催告を受けながらこれに応じない被告の態度は、まさに注文者としての債務不履行というべきであり、これをもつて右契約の解除原因となすに足りるものと認めるを妨げない。してみれば本件請負契約は昭和五一年九月六日の経過とともに、被告の責に帰すべき事由により解除されたものと認められる。してみれば被告は原告に対しこれによりこおむつた損害を賠償する義務があるというべきである。
(土井俊文)